有吉 本日はオリンピック選手の練習に使われる「味の素ナショナルトレーニングセンター」にお邪魔しています。思えば、荻原先生への最初のサポートが4年前のU20宮崎合宿でしたね。
荻原 当時、選手の故障やコンディションのつくり方に悩んでいて…。久しぶりに有吉先輩にお会いできたことが、きっかけでした。
有吉 共通の先輩の還暦パーティーで高校卒業以来の再会!私が実業団の陸上選手を担当していて、その経験談を話したらお願いされて。
荻原 特に女子の選手を見てもらいたくて。やはり男性とは身体が違うので。思春期の子供達ですし、私達男性には相談しづらいことも多々あるでしょうから。
有吉 最初は選抜チームで15人くらいでしたので、密なコミュニケーションの中から中長距離選手ならではの問題点が把握できました。
荻原 一番の問題点は?
有吉 非常に偏った運動経験です。小さな頃から走る練習だけをやってきた選手が多く、使い過ぎの筋肉と使ってこなかった筋肉が顕著で、故障の原因につながっていると感じました。走ること以外は簡単な運動もできない選手が多く、陸上選手って不器用だなぁという印象でした。
荻原 確かに足首を回すこともぎこちない様子でした。
有吉 コンディショニングをここ数年シンプルに落とし込めたのも、陸上選手を見たことが大きいでしょう。
有吉 荻原先生が感じる問題点はいかがですか?
荻原 やはり、過剰なまでの練習量です。世界の中でも日本ジュニアは別格。そのためジュニア期で選手生命が終わってしまう生徒が多いのです。本来はシニアで走力のピークを迎え、活躍しないといけないのに。
有吉 荻原先生は2年前に高 校駅伝で一石を投じましたね。練習量を減らして、全国ベスト8。勇気ある決断をされました。
荻原 前年の方が選手のレベルが高く、練習についてこれない生徒をつくらないようにしたかったことが主な理由です。そして、U20でオリンピック候補性を預かる人間として、目先の勝利よりも、生徒の将来を優先しなければならないと感じていることもあります。
有吉 結果としては有望株の多かった前年のチームの成績である 位を上回る結果となりました!
荻原 中長距離は確かに走り込まなければ結果はでません。過剰な練習量かどうかは毎年模索し続けています。
有吉 市民ランナーの走り過ぎも問題となっています。仕事や家事に忙しい大人が例えば、サブ4を目指すなら月間200km以上、サブ3なら月間300km以上練習で走っています。
荻原 週に50~80km走っている…。大したものです。
有吉 だから皆、満身創痍ですよ!健康、美容のために始めたのに、故障するなんて本末転倒ですね…。
荻原 まさにコンディショニングが必要ですね。
有吉 そう思い、4年前にランニングにコンディショニングを掛け合わせたランディショニング手帳を発売しました。「痛い身体で走らない」がテーマです。走る前や後に最適なコンディショニング種目や、ランナーの故障しやすい箇所のケア法、さらには楽にレベルアップできるランニングの練習法まで紹介しています。
荻原 おかげさまで、我が校の選手はコンディショニングでケガが減少しました。身体が整うことで走りの質も上がっています。
有吉 北九州市立の生徒は大会会場ですぐに見つかります。姿勢がいいから(笑)。コアが整い、姿勢が改善されているからです。
荻原 競歩で全国大会2連覇し、10月の国体でも高校記録を塗り替えた藤井菜々子選手は、コンディショニングの必要性を感じ、丁寧に行ってくれています。また、我が校の生徒だけではなく、九州の会場を回ると、有吉先生の指導を受けた生徒の中でセルコンを行うようになった子を多く見かけます。九州ジュニア女子長距離合宿などで効果を感じてくれたのでしょうね。
有吉 それはとても嬉しいことですね。荻原先生のおかげでもあります。U20も含め、先生を通して多くのジュニアランナーを見ることができたのは大きな経験です。ランナーに必要なコンディショニングが整理できましたから。早くランディショニングの決定版となる書籍をつくりたいと思っています。
荻原 小中学生のためのコンディショニング本があったら良いと思います。スポーツの種目を選ばず共通で活用できるイメージです。基本的なことだけでも小さな時から習慣化することが非常に大切ですから。
有吉 その重要性は私も強く感じています。子供に良いものという認識が広がれば大人も変わるでしょうし。私は荻原先生の学校が駅伝で優勝すること、そして、教え子の中からオリンピアが出ることを願っています。
荻原 簡単ではありませんが、選手にセルコン習慣をより浸透していければ、夢は少しずつ近づくと思います。